#017: Run -2

Novel1

 タイプの違うオートマトン――ユアンが問いかけるよりも先に、シオンは動き出した。車を降り、駆け出す彼の後を追う。エントランスに入ると、内部でも争いの跡が見える。ふと、通路の奥に見慣れた女性の姿を捉えた。
「室長!」
「お二人とも!無事で何より……ビリーはどうしました?」
 伴うように言っていたもう一人が見当たらず、リサは首をかしげる。
「先輩は、避難し損ねた人を探しに、ダウンタウンに向かいました」
 今は説明する時間も惜しいと思ったユアンは詳細を省き、簡潔に伝えた。
 リサは「そうですか」と、頷いた。そして、現在の状況を整理する。
 セントラルの内部にも少なからずオートマトンが侵入し、リサはその対処を行っていたことを話した。
「……先ほど、多くのマトンが動きを止めましたが、あれはマザーが?」
「僕がディアから受け取ったプログラムで奴らを停止させた。でも、まだ生きてるオートマトンがいるだろう?」
「ええ。停止された量産型よりやや大きく、アームが特徴的なものが複数体。けれど、数は多くありません」
 だが、そのオートマトンすべての位置が分かっているわけでもない。
「僕はこれからリンクルームに向かう。ホームと接続して僕が直接通信帯を復旧させる」
 そうすれば、内部通信帯から残るオートマトンのIDを検出し、停止命令を下すことができる。
 シオンの案に「了解しました」と、リサは短く応えた。
「早速向かいましょう。ユアン、これを」
 リサは手に持っていた鉄の棒を丸腰だったユアンに手渡した。
「館内には件のマトンも入り込んでいるかもしれません。用心を」
 そうして三人はリンクルームへと通路を走り出した。

 リンクルーム――マザーがホームと接続するための、セントラルの中でも高階層にある部屋だ。
 エレベーターを使用し八階へ、その昇降機の中入り口の正面でリサは鉄の棒を構える。
「何もないに越したことはないのですが――何が飛び出すかわかりませんから、二人は下がっていてください」
 やがて目的の階層に到着した合図が鳴る。扉が開くとその向こうに赤いランプが見えた。
 開き切る前に、喉元の関節部を目がけて、リサは鉄の棒を突き立てた。
 そして、扉が完全に開くと、突き刺した棒を大きく振ってオートマトンを壁へ叩きつけた。
「……やはり、この階層にもいるようですね。気を付けて――」
 不意に金属の足音が鳴り、リンクルームとは逆の通路から三体のオートマトンが姿を現した。その特徴的なアームがユアンたちに伸ばされ、リサは咄嗟に鉄の棒でそれをはじいた。
「――っ!……ここは私が引き受けます。マザーはリンクルームへ。ユアン、あとはお願いします」
 ユアンは一瞬戸惑うが、シオンがその肩を引っ張った。
「行こう、ユアン!」
 彼らが立ち去ったのを確認すると、リサは目の前のオートマトンに集中する。
「ここは通しませんよ」
 アームを振りかざす三体のオートマトンを相手に、リサは物怖じすることなく凛としたたたずまいで鉄の棒を構える。
 その姿には一分の隙もなかった。

 リサと別れたユアンとマザーは、やがてリンクルームの入口へ辿り着いた。
 厳重に閉ざされたその扉は、エリウズのマザーにのみ開錠できる。
 シオンがその認証パネルに手を伸ばそうとすると、硬い金属の足音が近づいてくる。
 赤いランプがユアンとシオンの姿を捉えた。
「――っ。シオン、君は中へ!」
 言うが早いか、ユアンは迫るオートマトンに向かって走り出した。
 声を上げ、両手で横に構えた鉄の棒を敵へ押し付け、そのまま力任せに突き当りの壁に抑え込んだ。
「ユアンっ!」
「――早くっ!行って!!」
 荒事が得意でないユアンに、あのオートマトンの相手はそうもたない。
 シオンは急いで扉の認証を終えるとリンクルームへ飛び込んだ。
 巨大なモニターの前に立ち、ホームへの接続を始める。
 <<お帰りなさい、マザー>>
 そんな言葉がシオンの脳裏に熱のない電子音声で響いた。
 形式的な挨拶なんてどうでもいいと、すぐに通信帯の復旧作業を開始する。
 
 ── 復旧作業:進行中[30%]…
 制御ラインを確保。バグ検出なし。
 ── [50%]…
 ルート展開、継続。処理速度は安定。
 ── [80%]…
 再編成フェーズに移行。最終照合を開始。
 
 ── 通信帯再編成:完了
 ── 接続先:内部通信帯へ移行中…
 
 ── 切替完了:内部通信帯へ正常接続

 通信状態が復旧され、内部通信帯に存在するオートマトンのID検知が可能になった。
 続けてシオンは、稼働中IDの特定に移行した。
 
 ── 稼働ID:1件検出(ID#C7X2-04)
 応答確認 → 攻撃行動中
 
 残る敵性オートマトンのIDを捉えた。
 即座に、停止命令プログラムの実行に移る。

 ── 停止命令コード:TRANSMIT [SHUTDOWN.PROTOCOL-B]
 ID#C7X2-04:送信中…

 通信の応答を待つ間も、部屋の外でオートマトンを抑えるユアンの姿が脳裏をよぎる。
 (早く、止まれ……!)
 演算回路の全処理を束ね、限界値を超える速度で命令を叩き込む。
 
 ── 命令受信 → 実行確認
 ── 状態:ID#C7X2-04 停止完了
 ── 現在、稼働ID:なし

「任務――完了――」
 シオンが発した命令コードは、対象IDを持つ全オートマトンの活動を止めた。
 そして、システム負荷による内部にたまった熱を冷ます様に、シオンの体は一時的に機能を停止した。

 
 リンクルームを守るため、オートマトンの足止めをしていたユアンは、機械仕掛けの力に押し返され、逆に壁へと押し付けられていた。
「ぐっ――!!」
 勢いよく叩きつけられた拍子、鉄に挟まれた左腕に、軋むような激痛が走る。
 残る右手で必死に抵抗する。だが、力の差は歴然だった。
 ここまでかと、覚悟した瞬間――ユアンを壁に押さえつけていたオートマトンの、赤いランプの光がゆっくりと消えていく。
 力から解放され、壁を支えにユアンの身体は膝からずるずると崩れ落ちた。
「た……たすかった……?」
 重たい体を再度持ち上げ痛む左腕を庇いながら、ユアンはふらふらとリンクルームに向かう。
 すると、逆の通路からリサが駆け付けた。
「ユアン、無事ですか!?」
「……ははっ……何とか……」
 その笑みに、彼の我慢が滲んでいた。その腕を見れば、骨に異常があることはリサの目にも明らかだった。
「……すみません。マザーを、おねがい……します……」
 ユアンは壁にもたれかかると、リサに支えられるようにゆっくりとその場に腰を下ろし、意識を失った。
「よく頑張りましたね。すぐに救護班が来ます――ゆっくり休んでください」
 左腕に衝撃が加わらないよう、そっとユアンの体を横たえると、リサはシオンの元へと向かった。
 開いたままの扉の先には、眠るように瞳を閉じて立ち尽くすシオンの姿があった。体を支える補助機能が働いたまま、その身体は静かに停止している。
 正面の巨大なモニターに表示されたプログラムの実行結果が、事態の収束を語っていた。
「……お疲れ様です。マザー」
 リサは大きく安堵の息を吐くと、すぐに局長へ現状を報告した。
 やがて、都市内の安全が確認されると、シェルターの扉は解放された。
 エリウズに再び平穏が訪れたのだった。